前もって断わっておきますが、このホテルは今年廃業しました。つぶれるのも道理、それはそれはスゴイ宿でした。私はおととし泊まったのですが、今となっては“貴重な体験”をしたわけです。
まずロビーからしてひどくレトロというか、昭和30〜40年代のような、ホテルというよりもどこかの炭鉱が持っていた保養施設のような、暗く、うらぶれた雰囲気が充満していました。客室に入ると、暗く、ボロく、汚く、指名手配犯が潜伏するにはうってつけのマイナーさに押しつぶされ、「おれはこんなところで何をしているんだ?」と自問自答したくなります。部屋の隅はなぜかむりやりL字型になっていて、そこにみすぼらしいベッドが押し込まれています。横になって明かりを消すと、不覚にも涙がこみ上げてきます。
さあ、こんなことでめげていてはいけない。すてきな夕食のことをお話しせねばなりません。中途半端に薄暗い妙な色彩の食堂には、すでに冷たいオカズたちが並んでいます。うれしくて膝から力が抜けていきます。いったいいつから待っていてくれたのでしょうか?
ロビーのソファに座ってヤニをまき散らしているおかみ(?)に声をかけると、面倒くさそうに夕食の支度をしてくれます。ものすごい色をした鶏肉の和え物を飲み込んだとき、明日のわが身を思いました。べっちゃりと変形したシューマイを噛んだとき、なんとも形容しがたいイヤな歯ごたえとともに、口の中いっぱいに不快なくさい汁が充満しました。悪夢でした。これはもはや、まずいうまいの次元でさえなく、純粋に安全性の問題なのだということに気づき、黄色っぽく変色した飯を得体の知れない実の入った味噌汁で流し込み、大急ぎで部屋に戻って胃腸薬を飲みました。
今まで泊まった宿の中でもワースト3に入る宿でしたが、ここまですごいと逆に笑ってしまうのはなぜでしょう? (もやしもん)