2回続いてすばらしいお宿を紹介したので、今回はとっておきのマイ・ワースト宿の登場です。拍手。
宿の前に着いたとたんに面食らったものです。汚くて古いソバ屋にしか見えません。周囲をぐるりと回ってみても、宿の入口がどこにも見当たりません。仕方なくソバ屋に入って声をかけると、「あ、そこから横に入って」という不条理な指示が。横?よくよく見回すと、玄関が2重構造になっていて物置状態。その奥に小さなドアがあるではありませんか。ほとんどお化け屋敷です。いやな予感を押し殺してドアを開けます。するとどうでしょう!信じられないほど急勾配の、それも今どき珍しい木造階段が!しかも暗い!電球が気休めにしかなっていない!そして殺人的に狭い!両手に荷物を持って壁にこすりつけながら階段を上がるのは、誇張ではなく命がけ。足を踏み外せば“死”。いやだ。なにが悲しくて稚内のソバ屋の階段から落ちて死なねばならんのだ。ようやく2階に着いてふたたび絶句。そこには汚いスノコとでかいゲタ箱があり、想像を絶するほど汚い長靴やズック(まちがってもスニーカーなどというこじゃれた代物ではない)が、爆破された靴屋の焼け跡のように散乱しています。
ああっ、におう!半世紀ほど掃除を放棄した運動部の部室を想わせる異臭が鼻の粘膜を直撃します。廊下に上がったとたんに次なるショックが襲ってきました。壁に並んだ両開きの扉には、なんと前世紀の遺物・南京錠がっ!道理で、ソバ屋で渡された客室のカギが異様に小さいと思いました。しかも壊れていてカギの意味がない!もう限界でした。「誰か!誰かいませんか!」必死で救いを求めると、廊下の奥から、腹巻にステテコ姿の粋なじじいがヨロヨロと廊下を漂ってきました。どうやらこの宿に棲息している生き物のようです。カギのことを話すと、いったんヨロヨロと奥に引っ込み、新しい南京錠を持ってきてくれました。やれやれと思って、試しにカギをかけようとすると合わない!じじいを見ると、「あー、合わないねー。あきらめて」と接客業オール放棄のありがたいお言葉。
あきらめてセキュリティ皆無の客室に入ると、もちろん汚い・暗い・狭いの三拍子。しかもなんと驚くなかれ、客室と客室を仕切っているのはただのフスマ!隣りの部屋のおっさんの屁の音まではっきりくっきり聞こえます!明かりを消すと、隣りの部屋の光がフスマの間からレーザーのごとく鋭く差し込んでくる!テレビをつけると、隣りのテレビの音と混ざってしまう!もういやだ。とっととメシを食って早寝して早起きして逃げよう。そう決心して1階に下ります。そう、お察しの通り、この宿のメシは階下のソバ屋で食べるのです。
はい、言わずもがな、まずい・高い・少ないの三拍子です。これで1泊2食7000円!悪夢とはこういうことを言うのですね。 (もやしもん)