前回のカラカミ観光に続いて、今回は料理のインパクトでは勝るとも劣らない野口観光と参りましょう。
函館湯の川温泉の「湯元啄木亭」。ライトアップされた大きな内庭を眼下に眺めながら食堂に向かいます。さして広くないレストランに、ちんまりと料理が並んでいます。なるほど。やたらに品数を並べるのではなく、味と素材で勝負しようという趣旨なのですね。席に案内してくれるスタッフの動きや表情がゾンビのようにぎこちないのもご愛嬌。バイキングの説明を始めると、ほとんどマニュアルを棒読みしているだけの素っ気なさ。しかもカミました。なるほど。きっと地元のバイト学生なのですね。野口観光は函館の貧しい勤労学生に働き口を提供しているのだ。
きっとそうだ。さあ料理を取りに行きましょう。……なんだか寂しいメニューばかりが並んでいます。スーパーの惣菜コーナーのようにみすぼらしい揚げ物。まずそうな漬物。油っぽい焼きそば。ふた付きの器を開けてみると一口餃子。やれやれ、これでも食べてみますか。……痛えっ!なんだこの激痛は?血が!口から血がぁっ!……な
んてこった。餃子がカラッカラに乾いてプラスチックのような硬さとなり、皮が合わさって尖った先が歯グキに突き刺さったのでした。頭に来て、皮を引きちぎって軟らかいところを食べます。まずい。というより安っぽい味。ひと昔前の学校給食……いや、業務用冷凍食品の味ですね。食材にはまったく予算を割かない、野口観光のいさぎよい金儲け主義がきらりと光ります。サラダを食べてまずいと思ったのも初めての体験でした。体に悪そうな味のドレッシングに爆笑です。
──さて、ここで対極にあるバイキング料理を紹介しておきましょう。斜里町ウトロ温泉の「知床第一ホテル」!ここのバイキングは衝撃でした。レストランがカラカミ系列ホテルに負けないほど広大なのですが、実物大の漁船らしきものが飾り付けに置いてあったりして、立体的で工夫を凝らした楽しい空間に、うまそうな料理がこれでもかとばかりに並んでいます。そう、見た目がまず全然違うのです。案内してくれたスタッフも教育が行き届いていて、厭味がなく、ハキハキしていて気持ちがいい。某ホテルとはえらい違いです。さあ食べてみましょう……うまい!信じられないことに、握り寿司がうまいので
すよ。バイキングで寿司がうまいと思ったのも初めてです。決して高級なネタではな
いのですが、きちんと素材を吟味しているという感じです。それからもう、和洋中の何を持ってきてもうまい。デザートの杏仁豆腐ですら、そんじょそこらの中華料理屋で出すものよりはるかにうまい。翌日の朝食バイキングは、試しに洋食で統一してみましたが、これまた驚き。何の変哲もないスクランブルエッグでさえ、カラカミや野口で食べたものよりはるかにうまい。卵にバターで火を通すだけの超シンプルな料理でこれだけの差が出るのは、素材だけではなく料理人の腕、姿勢からして違うとしか考えられません。正直、このホテルになら、金を出してバイキングを食べに来る価値はあると思いました。カラカミや野口の宿には……まあ……向こうから金を出してくれるのなら、泊まりに行ってやらないこともないかもしれないと思うこともないとは必ずしも言い切れないです。ただし素泊りで。(もやしもん)