久々に「いい宿」をピックアップしてみましょうか。いつぞや紹介した洞爺の「フェニックス洞爺クラブ」と並んで、私のお気に入り・とっておきの宿「いわない温泉高島旅館」です。
ここは、うまいものに目がない人にとっては必須の宿という感じで、かなり知られた存在ではあります。岩内のなだらかな山の上にあって、ロケーションは抜群。すぐ近くにはパッとしないホテルや、やたらバカ高い木材を使っていることを自慢たらたらで一流ぶって天狗になったくせに料理が今いちと評判の高額旅館(高級、ではない)もありますが、お奨めは断然ここです。まず宿の造りがいいんですね。華美ではないけれど上質なデザインで品がいい。エントランスから靴のまま入ることができ、岩内の海を一望できる小ぢんまりしたラウンジまで、全体にヨーロッパの別荘を想わせるような居心地のいい高級感が漂っています。それに、なによりここは従業員さんたちの応対がすごく気持ちいい!丁寧なのにさわやかで押しつけがましくなく、本当に濃やかに気を遣ってくれているのがわかるんですよ。
さらに、ここの社長は本物の料理人で、控えめで決して偉ぶったりせず、これまた気持ちのいい人なんですな(前回、「惜しい!の宿B」で取り上げた某漁師の某ホテルにぜひとも見習わせたいと切に思う今日このごろ)。
さて、ここのお風呂は源泉かけ流し温泉で、本当に落ち着ける木の温もり満点の内風呂に加え、丸く平たい桶のような珍しい露天風呂もあって、山の風景に囲まれてのんびり浸かるのがこたえられません。
全部で14部屋しかない上、正統派の料理旅館なので、他人に迷惑をかけることをなんとも思わない小うるせえバカ子連れ客やアホ中年出張族はほとんど来ないし、部屋数が少ないので温泉も食事も落ち着いて楽しめるのが非常にうれしい。
さて、夕食は部屋食です。清潔で気持ちのいい和室で待っていると、はじめに仲居さんがやって来るや、
「アワビはどうやって召し上がりますか」とえらいことを訊いてくれます。その結果、ひとつはその場で七輪による炭火焼きに、ひとつは刺身にして、ひとつは鍋でいただくという事態に。こんな贅沢をしていていいのでしょうか。バチが当たらないでしょうか。帰ってみたら自宅が全焼してないでしょうか。
ほかにも、活ヒラメ1尾を使った姿盛りの刺身、日本海・積丹で獲れる高級魚オオバ(モンケともいう。正式名称はハツメ)の塩焼き、アワビの入った浜鍋にはカニが混浴しているという徹底ぶり。これにデザートがつくのですから、少食の人では食べきれません。いいのでしょうか。帰りに運ちゃんが爆睡ぶっこいた大型トラックと正面衝突したりしないでしょうか。
そして、もう一つ特筆しておきたいのは、食事に使われる器の素晴らしさ。ここのご主人は器に凝る人らしく、翌日の朝食にも、思わず「これ売ってください!」
といいたくなるような食器が惜しげもなく使われています。もちろん味も抜群で、北海道の朝食のうまい宿ベスト5に入れてあげたいくらいです。
これだけ高級食材をたっぷり使った“美味尽くし温泉添え快適サービス風味”で、1泊2食がせいぜい1万5千円です。もうほかのがさつでメシがまずいくせに値段の高い温泉旅館なんか行けませんわ。(もやしもん)